ひなはづチャンネルの楽屋

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アルコールに関与する者の視点からコロナ禍における今の情勢を読む(2020.04)

今の勤務先はエタノールを使用しており、私は比較的アルコールに"近い"位置で仕事をしているため、アルコール供給元から現況も情報が入れば、省庁による規制緩和や関係事業所への要請、経営者から指示を受けたりと、アルコールに関して様々なことが耳に入ります。

新型コロナウィルスの感染拡大により、消毒・殺菌目的の薬剤類の需要は急速に伸びています。業界ではどのようなことが起こっているのか、私の知りうる限りの情報と考えをまとめてみます。

結論から申し上げますと、アルコール製剤の供給は先行き不透明です。しかしこの記事の目的は不安を煽ることではなく、「本当に必要な機関・人に優先的に必要とする物資が届いて欲しいという思い」があるためです。日常生活において高濃度エタノールで殺菌を施すシーンはほぼありません。この記事が読まれることでアルコールが医療機関介護施設などに少しでも多く供給されることを望んでいます。

(最近、芸能人が「衛生手洗い」をyoutubeで公開されている方が多いので、手洗いの参考にされてみてはいかがでしょうか)

(また、高濃度アルコールは揮発性・引火性が非常に高く、使用や保管に配慮しなければ事故の原因になります。そういった面でもご家庭では石鹸による手洗いが安全でいいでしょう)

 

 

厚労省規制緩和について

www.ryutsuu.biz

ざっくり説明すると、手指消毒用エタノールは本来、医薬品・医薬部外品の類で、工業用を目的として販売されている酒税の掛からないアルコール(一般アルコールという)を用いて製造されているけど、厚労省は「酒の中でもスピリッツのような殺菌効果があるアルコール濃度の酒類を、手指消毒用として使用しても差し支えない」という規制緩和をした、、、ということになります。

お酒ですので酒税が掛かります。酒税が加算されて販売されるアルコールのことを「特定アルコール」といいます。上記事の中に「アルコール事業法(平成12年法律第6号)に規定する特定アルコールを取り扱う既存の事業者」とありますが、飲用目的=お酒になるアルコールには酒税が掛かり、その酒税が掛かるアルコールのことを差しています。それ以外の用途(消毒剤や化粧品や香料などの製造)にアルコールを使用する場合は、アルコール事業法に定められた用件を満たすことで酒税が掛からないアルコール=一般アルコールが使用されています。

私の見解ですが、手指消毒用エタノールに対する緩和に留められ、医療現場で使用される消毒用エタノール全般に緩和されていないのは、本当に衛生的な環境下で使用されるアルコールは、従来の薬機法の規制下で製造された衛生的なものである必要があり、”医療現場で必要なアルコールを確保したい"、だから"手指の消毒なら酒でいい"、とした、、、と読んでいます。

 

 

国税庁規制緩和について

www.ssnp.co.jp

これは飲食店が外出自粛により経営面で大打撃を受けている状況であるため、バーやスナックの持ち帰り販売を半年間認めるという内容です。飲食店は3密空間であるため、本来は認められていなかった酒の持ち帰り販売を一時的に緩和したものでしょうけど、、、焼け石に水な政策でしょう。お酒を取り扱う店舗だけでなく、経済活動全般が大打撃を受けているわけですから、もっと大きな補償を打ち出してもらいたいです。

 

 

〇消毒用アルコールを取り巻く状況

勤務先ではアルコールを2社購買しており、それぞれの担当者に今の状況を確認すると口を揃えて下記のような回答を得られました。

・3月後半から消毒用を目的としたアルコールの需要が急速に伸びている。

・アルコールの調達量以上の供給はできないので、新規案件はお断りしている。

・ボトルやスプレーなど、消毒シーンで使う容器の調達も間に合わない状況。

・アルコール製品を製造する企業へ納入するタンクローリーの配車も5月上旬までいっぱい。これは慢性的なドライバー不足の影響。

以上から言えるのは、「アルコール消毒液を販売すれば稼げるっ」と思い立って新事業をやろうとしても、アルコールも容器も調達ができないということ。そのような考えをお持ちである場合、問い合わせを掛けても関連業者の対応を増やすだけで、消毒用アルコールの世の中への供給が増えるわけではないので控えて頂く方がいいでしょう。

 

上記の情報の中の"容器不足"に関しては、これまた厚労省が緩和措置をとっており、

https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000608225.pdf

(↑PDFが開きます)

「イベント又は施設等の訪問者や職員等に使用させることを目的として、消毒用エタノールを他の容器へ詰め替え、使用させることは差し支えないこと」とあります。本来は衛生面から詰め替えが認められない消毒用エタノールですが、容器がない情勢に配慮して詰め替えが認められています。最初の「厚労省規制緩和について」の項に触れた内容と抱き合わせると、「スピリッツを買って(酒税を納めて)スプレーポンプに詰め替えて消毒液とすることは、その場での使用目的の範囲で認められる。ただしそれを販売するのはダメ」ということになります。

※注意! 高濃度アルコールだと容器が溶ける場合があります。有害な物性に変化する可能性があるので、もし容器を詰め替えることをお考えの場合は、容器の耐アルコール性をご確認の上自己責任でお願いします。失敗しないのは、高濃度アルコール液が入っていた空容器に充填することです。

 

容器の増産が思うようにいかないのは、容器メーカーの製造拠点が海外に多いことと、増産するための設備投資がしにくいことが挙げられると思います。特に後者の背景として私が思い出すのは「食べるラー油」ブームが過ぎた後に聞いた容器販社担当者の話です。

ブームが起こると競合他社が追従して類似品をリリースしていきます。食べるラー油の時はあのガラス瓶が品薄になり、容器メーカーは機械を増設して対応したそうですが、ブームが下火になってくるとどのユーザー・メーカーもガラス瓶の在庫が莫大残ったそうです。そういう経験からその後の「塩麴」ブームの際、容器メーカーは設備の増産をしなかったそうです。

一過性のものへの投資はなかなか決断しにくいものです。マスク増産に関しては国からメーカーに増産体制を整えるための援助があるのでしょうか。今回は食べるラー油や塩麴ではなく生命に関わる消毒液なので、容器メーカーへの補助などが検討されていれば良いのですが。。。

 

 

容器が規制緩和だったり増産が見込めたとしても、アルコールを運ぶタンクローリーのドライバー不足の解消も必要な状況です。

そもそも近年、タンクローリーに限らず運送業界は人手不足なのは周知の事実ですが、タンクローリーとなるとただの大型免許では運転できません。消防法に規定される危険物の運搬にあたるものですから、資格保有者が限られてきます。

配送業界では近年まで運賃引き上げが各界で認めてもらえず、そのしわ寄せが配送ドライバーに至り、有資格者でありながら低賃金で働かされていることが続きました。そのため若い労働力が流入しない環境になっていました。これが今のドライバー不足の一因になっています。

また、長距離バスドライバーの長時間労働における過労死や交通事故の問題を機に、労働時間の厳格化もなされました。長時間運行するならドライバー2人態勢で交代するか、〇時間労働したら△時間は休息が必要という内容で、ドライバーの安全や健康は守られることになりましたが、逆を言えばドライバーによる並々ならぬ努力で日本の流通は支えられていたわけです。労働環境は改善されましたが、結果的に物流能力は低下することになりました。運送業界に労働力が集まるような経済対策が必要な状況は、ずいぶん以前からあったと言えます。

 

〇アルコールの今後の見通し

そして、「アルコールそのもの」のこの先の供給はどのようになるかというと、これも私の予想ですが慢性的な不足が続くと思います。

日本は資源を外国からの輸入に頼っている国で、アルコールも輸入に頼っている資源の一つです。アルコール(エタノール)の主原料はサトウキビやトウモロコシです。日本はブラジルからの輸入量が最も多いのですが、ブラジルなどは広大な国土・農地があるからこそアルコール製造が事業として成り立ちます。日本の国土だとアルコールの自給自足は非現実的。

新型コロナウィルスは世界的な問題であるため、各国で消毒用アルコールの需要が高まることは間違いありません。もし、アルコール生産国が輸出量を絞り込んだら、、、

 

 

このコロナ禍を"戦時下"だと評する人がいますが、戦争を経験したことのない私でも、戦時下のような経済的大打撃は起こりえると思っています。マスク、トイレットペーパー、液体石鹸、アルコール消毒液・・・と、様々なものが店舗の棚に並ばないことが続きますが、いずれも供給不安が根底にあるもので、その心理を利用した転売行為や買い占めが起こったりしています。このような行為の積み重ねが、本当に物資を必要としている医療現場の崩壊を招き、経済の壊滅に至ることを想像しなければなりません。

今が戦時下であるならば、戦っている相手は"利己的な思想”。ウィルスVS人類という戦争において、人類同士が戦っていては終戦には程遠いでしょう。

最前線で頑張ってくれている医療や経済を支える物流などにリソースを注ぐため、自分でできる範囲の感染防止の努力と、他者への思いやりの心を持つことで、この戦争に勝ちたいと私は願います。

アルコールのことから話が大きくなり、また稚拙な文章で取り留めのない内容になってしまいましたが、「まずはサラリーマンとして明日金曜日もがんばろう」と思った私でした。(明日も仕事なんだけど午前0時30分過ぎたんだよなぁorz)